『室井慎次 生き続ける者』感想|誤った育児制度と支離滅裂な脚本が生んだ悲劇

公開日  2024年11月15日
上映時間 115分

監督   本広克行
脚本   君塚良一
キャスト 柳葉敏郎 福本莉子 前山くうが 前山こうが 齋藤潤 松下洸平 矢本悠馬 筧利夫 真矢ミキ
甲本雅裕 加藤浩次

映画ドットコム様より引用

debuwo評価 18点
おすすめ度  (星1)

シリーズの終着点が“呪物”になった日

2024年に公開された『室井慎次 生き続ける者』
──もし当時映画館で観ていたら
間違いなくワースト映画に挙げていたであろう作品だ。
室井慎次というキャラクターをここまで台無しにする脚本に
ただただ呆気にとられた。
柳葉敏郎さんをはじめ、俳優陣の演技は素晴らしかった。
後編から登場する加藤浩次さんも、実在しそうな雰囲気を醸し出していて好演だった。
だが、いかに演技が良くても、脚本と人物設定が根本的に破綻していてはどうにもならない。
今回は本作で特に問題のある登場人物に焦点を当ててレビューしていく
また本作は前後編で後編にあたる作品
前編のレビューはこちら

柳町明楽─偏見と支離滅裂・脚本の擬人化

リクの父であり、暴力衝動を抑えられない元強盗犯。
感情が制御しきれない哀れな父親になった経緯は
人生で失敗続きで良い事が無かった…という経緯を持ち
善人ではないがまともな生き方が出来れば悪に染まることもなかった
という方向性で進むのかと思ったら
「リクを養いたければ金を払え」という
自分の子供を何とも思っていない言動は
暗い過去のせいで人格が歪んだというよりも
言い逃れ出来ないただのクズで
本作前半で言っていた人物像とは異なる

そのくせ最後は後悔で泣き出したり
ヤバそうな雰囲気の人という部分以外は
シーンによってまるで別人とさえ思える
根本的に人物描写が支離滅裂と言った感じで
人生で失敗した人間はいともたやすくストレスで
暴力に走り、衝動的に殺人まで犯すのだ
そのくせ自分のやったことに後悔する稚拙な生き物!

という偏見に満ちた上にディティールの甘い描き方は相変わらずといったところだ

加藤さんの演技はすごく良い

悪人は反省しない

勿論罪状にもよるし
罪を償い立派に生きている人間も存在する

しかし本作に登場するような犯罪者は
そんな類の人間ではないという前提で書かせていただくが
前篇にあたる敗れざる者に登場した
タカの母を殺した犯人・井戸川からしてそうだが
そもそも現実の事件を起こした犯罪者からみると
残念ながら犯行に関しての面会で不遜な態度とるような人物や
出所後に犯罪を繰り返す犯罪者はそもそも反省などしない

我々一般人がやってはいけないこと、踏めないアクセルを
彼らは何のブレーキもなしに踏み込めるのだ
そんな人物が子供の発言やもめ事一つで、やったことに後悔するわけもない
これを見ると脚本家はよほど育ちのいい
人生順風満帆な温室育ちが書いたのだろうなと思うほかない

映画「凶悪」のピエール瀧さん演じる須藤純次が実に分かりやすい

とにかく筆者からすれば柳町明楽という矛盾しすぎで
偏見にまみれた滅茶苦茶な人物像は
この本作脚本の擬人化言わせてもらうほかない

松木敬子─制度無視の無能班長

児童相談所の班長でありながら
現実の育児制度や法律を完全に無視した裁量を振るう。
演じた稲森いずみさんが気の毒になるほどの無能ぶりだ。

この世界の歪み

実親にリクを戻すことを強制(しかも2日で)

実親である柳町明楽が出所し、リクのもとに現れたことで
リクの養育権が柳町の元にあると決めつけて
正式な手続きで里親となった室井とリクを引き離し
たった二日で柳町の元で暮らすように強制させる。

まずこのようなスピード、かつ略式的に児童を実親に戻すことなどない

餓死寸前まで虐待した柳町に養育権を認める

  • 日常的にリクを虐待
  • 仕事と称した強盗で逮捕される
  • 逮捕されたせいでリクは保護者不在で餓死寸前
  • 服役を終えた現在は生活保護が必要なほどお金がない
  • そもそも日常的にどこか様子がおかしい

こんな柳町明楽をみて疑問に思い
審査を行わない松木は児童相談所のリーダー職に就くべき人間ではない

ちなみに現実では法的には養育権は実親である柳町明楽にあり
室井は里親としての一時預かりという事になり
柳町明楽の元に戻ることは考えられる…が

ただし、それは柳町明楽が普通に人物であればだ
虐待・元強盗犯・生活もままならない
このような人物に子供を戻すことは現実ではありえないのだ

室井とリクを二度と会わせないと断言

本作では何故か里親として責務を全うしていた室井が
実親の元に戻ることになったリクに
室井は二度と会えなくなると松木は言っている
断言するが
そのような事は全くない

日本の里親制度はとどのつまり
子供の事を最重要視してルールが作られており

仮に里親から実親の元に戻すことになったとしても
子供のメンタルケアのため、定期的に里親と会うことを推奨することの方がむしろ多い

松木がこのような発言をしたのは
室井のなまはげの物まねが気に食わなかったのか
本作の黒幕である日向真奈美に洗脳された人物であるか
いずれにせよ罪問われるレベルのとんでもない人物だ

参考までに
里親委託ガイドラインのPDFを貼っておきます

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000018h6g-att/2r98520000018hlp.pdf

室井慎次─露呈してしまった無能

松木の罪深さは相当なものだが
主人公である室井も罪深さという点では引けを取らない
もはや自身が清算できないという点では
残念ながら松木をも上回っている…

室井さんと言うキャラは大好きですけどね

柳町の危険性を知りながらリクを戻す

柳町明楽のような犯罪者はいくらも見てみただろうに
リクの虐待の傷跡を見てなお柳町の元に戻したのか?
リクの父親としての自覚があるのなら
柳町明楽と取っ組み合いをする前に
松木を捻じ伏せる為に育児制度の精査と虐待の報告
ご近所付き合いで在職時に培った権力を使う前にやるべきことがあるだろう

それだけ可愛がってなぜベストを尽くさないのか

問題児・杏に猟銃を持たせるショック療法

いくらなんでも猟銃持たせるのはヤバすぎる
ショック療法をするにしてももっと別の方法があるだろう
さらに言えば猟銃は『狩猟用の銃』であり、『護身用の銃』ではない
これは思想の問題ではなく、法的に取り決められていることである
元警察官僚である人物の発言、行動とはとても思えない
更に案の定、銃のロッカーの暗証番号をみせてしまった結果
杏は人殺しになるところだったのだ
切羽詰まったら銃を取り出して護身するという思想に陥った杏
これはどうみて室井の教育が生み出した過ちである

案の定やらかしちゃったよー

非暴力主義を掲げながらリクの喧嘩を褒める

自信は非暴力主義で街の若者を指導しているにもかかわらず
リクが学校で喧嘩をしたことに関してほめるのも矛盾している
褒めるにしても多少は窘めなければならないところだろう
でなければ「お菓子、棚に戻そうか!」で
彼にほだされた街の若者たちは何だったのか

リク「力こそ正義」

狭心症を抱えながら猛吹雪の中で遭難

父親として生きる意味をもっと考えて欲しい
あまりにもアホ過ぎる
柳町明楽と命がけの取っ組みあいで
狭心症の症状が深刻化した室井にとっては
猛吹雪の山に飛び出すなどと言うのは
命知らずを通り越して自殺行為と言わざるを得ない
本当に真摯に対応するのであれば
自分は狭心症であることを明かし
タカに無理のない範囲で探させて
室井自身は自宅で待機しておくべきである。
親として皆を見守る振る舞いを最優先すべきである。
この作品の描写だけ見たら
警察でのキャリア闘争も負けるの納得の無能ぶり

家族の為にも自分を大切にして下さい

日向真奈美─“俺たちの考えたレクター博士”

踊る制作陣が考えた
「俺達の考えたハンニバル・レクター」
あまりにも獄中妊娠出産・マインドコントロールなど
もはや超常的存在と言って過言ではない無法ぶりなのだが
劇中ではただの妄言を放つ変人にしか見えない
せめてマインドコントロールで他人を操る演出を入れるべきだが
残念ながら脚本と演出の練度が描きたい人物像に追い付いていない!!

絶対遵守のギアスでも持ってるのか?

そもそも踊るシリーズが90年代になぜあれほどヒットしたのかといえば
過去の刑事ドラマは刑事はかっこいい!ドンパチ演出もあるぜ!
というものから、現実の警察は本庁とそれ以外の階級差別があり
そんなにかっこいいもんじゃないというそれまでの定番とは違った
ある種のはずし、といってもいいリアリティに寄せたところが人気の大きな要素だった

ドラマは本当に面白かった

しかし時代は平成から令和となり
作品が描く情報や設定が90年代とは比べ物にならない速度で考察され
それが正しいか誤ってるかを流布される世の中とは反比例して
踊るシリーズはどんどん描く内容が現実の法律やネットなどから乖離して
偏見に満ちた内容になっていった

遺産を呪物に変えた愚行

この作品で感動させられると思っている制作陣は
浮世離れしてるというか根本的に考えにズレがあるとしか思えない
本当に現代を生きる人間が書いたのかと疑いたくなる。
自らが無線の声として出演したと自慢する前に
良い作品作りを心掛け、テーマ、設定に沿った取材をするべきだ
特に本作の育児制度・刑期を終えた犯罪者を忠実に描くことは
リアリティの追求ではなく、仕事として常識範囲の話なので
執筆した関係者の方は立場に胡坐をかかず
そのくらいちゃんと調べて書けと言いたい。

ラストの彼

室井の家まで来て引き返す青島──
東京から秋田の山奥まで来て、仕事の電話がかかってきたらしく
室井家を目の前にして踵を返す…
仕事好きな青島なら…と思うかもしれないが
普通に考えれば、民家に入るかどうかで大してスケジュールが変わるわけでもない
何故そんな意味のない事を、と思うが待ってほしい
この演出を考えた人間が呼べば車が迎えに来て
スケジュールも自分の都合で決めれるような立場の人間が考えたと思えば
然もありなんと言ったところか…

いつか青島には室井家に行って、線香の一本でも立ててほしいものだ。

おまけ リク「杏姉ちゃん!」

リクの性癖は絶対に杏姉ちゃんにぶっ壊されてる

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