公開日 2025年12月19日
上映時間 123分
監督 イライジャ・バイナム
脚本 イライジャ・バイナム
キャスト ジョナサン・メジャース ヘイリーベネット マイク・オハーン テイラー・ペイジ ハリソン・ペイジ
アメリカの片田舎で病気の祖父を介護しながら暮らす青年キリアン・マドックス。
公式サイトより抜粋
低収入で友人も恋人もおらず孤独な毎日を送っているが
彼には揺るぎない<夢>があった。
一流ボディビルダーになり、その鍛え上げた肉体で雑誌の表紙を飾ることだ。
すべてを捧げ過酷なトレーニングと食事制限に打ち込むが
身体は悲鳴をあげ、社会の不条理と孤立が彼の精神を蝕んでいく。
そしてある事件を機に、純粋な夢は狂気へと変貌する…。
debuwo評価 90点
おすすめ度 ★★★★(星4)
原題MAGAZINE DREAMSの意味
プロのボディビルダーとなって
フィットネス雑誌の表紙を飾る事ーー
MAGAZINE DREAMES(雑誌に載る事への夢)が
主人公キリアン・マドックスの夢だ。
そんな彼が夢に向かって努力する日々を描いた映画だが
決してアメリカン・ドリームを掴むサクセスストーリーではなく
成功の兆しが出ない事への絶望感、焦燥感
狂気じみた努力への妄信と社会から孤立しつつある人間が
ドツボにはまっていく様とさらに追い打ちをかけるハードな内容だ。
目を背けたくなるシーンが続く映画だが
孤立する個人の余りにも辛いリアリティと行き着く先は
他の映画にはない異彩の魅力を持った映画だ

誰しもなりえる孤独な主人公
- 過去に暴力事件を起こし、現在はカウンセリングを受けている
- 口数は少なく、ボディビル(趣味)以外の事には興味がない
- 貧しいヤングケアラーであり、今なお祖父の介護をしており生活に余裕はない
- 仕事の態度もあまりよくなく怖がられている
- ステロイダーでつらくなると酒に逃げる癖あり
先に言っておくが主人公キリアンは
決してひたむきに夢を追う人物と言うわけではない
辛くなると衝動的に暴力に走り、客の買ったパイに唾を垂らす
むしろ、非難されるような部分が目に付く
やってること自体はどう考えても擁護しようがないが
そもそも恵まれた環境でない生い立ちと
努力が報われない日々、そして気持ちの受け手がいない環境は
誰しもキリアンと同じく過敏で攻撃的な性格になっていくだろう。
そしてこう言ったある種の不能感をもった男性は
現代社会では弱者男性と言われ、人によっては無敵の人となってしまう
悪事の部分は重なる人間は少ないが
不遇されている、もしくはそう感じて生きてきた人間にとっては
彼にはある程度シンパシーを感じるのではなかろうか
少なくとも筆者はその一人だ
バイナム監督も、キリアンは現代の傷ついた男性の象徴だと
声明で語っている

耐え難い苦痛と発散できない悪循環
- ステロイドにより性器の収縮、ED
- 大会当日に暴力により報復され、その相手には家族がいる
- 憧れの『ブラッド・ヴァンダーホーン』
- 体が過剰なボディビル生活で手術が必要なほど悲鳴を上げている
キリアンの生活が彼にとって良くなかった点は
ストレスが発散出来なかったことだろう
ステロイドの副作用で自らでの性処理ができず
深夜に淡白にAVを見ながらミルクを飲むキリアン
後の風俗街のシーンでも察することができるが
いくら求めようとも体がそれに答えてくれない
次に、ペンキ屋とのトラブルだろう
彼らが暴力を振るってきた時と変わらず
普段からただのゴロツキであればいくらかマシだったが
リーダー格の男に妻と子供がいてそれなりに幸せなのが良くなかった
自業自得とはいえ、彼らに僅かなチャンスを奪われたキリアンにとっては
余りにも残酷すぎた

そしてトドメが尊敬する
『ブラッド・ヴァンダーホーン』との出会いだろう
ファンとしての心を弄ばれ
ステロイドによって不能感を持つところに
ヴァンダーホーンは自身の欲望を捻じ込み、挙句キリアンを使い捨てた。
男性としての尊厳だけでなく、個人としても踏み躙られてしまったのだ。
肉体を酷使して手術が必至にもかかわらずそれを拒否した彼の残り時間は少ないだろう。
そんな中に五月雨のごとく起こったネガティブな事件の数々は
彼を壊すには十分だった。

彼が必要だった人
本編で唯一キリアンが人との関りを持とうと努力して
それが実り食事をすることになった仕事仲間のジェシー
しかし、初めての食事でキリアンのコミュニケーション能力の低さが
余りにも悲しい方向へ食事を勧めてしまう
どう考えてもキリアンが悪いが、ここでの彼の振る舞いは
彼の今日までの環境を察して余りある。

- 恋人がほしかった
- 身の上話を聞く友人がほしかった
- ボディビル仲間に同じ志を持つ人と語らいたかった
この3つを初めてのデートでジェシー1人に
全て受け入れてもらおうとしたのが失敗だった。
ジェシーとのデートの前に残り二つを受けれてくれる友人
もしくは祖父に現状を素直に伝えていれば
彼女とのデートはもっと楽しいものになったはずだ
食事の量の多さも劇中ではとどめのように描かれているが
話が盛り上がっていれば笑い話の一つにもなっただろう。
孤独が対人関係に悪循環を起こして希望の芽を摘むという
あまりに辛く、痛々しいシーン。

主演ジョナサン・メジャース
ボディビルダーとしてのキャリアも邪魔され
生業の仕事も解雇され、どんどん追い詰められているくキリアン
物語の終盤、いよいよ彼は戻れないところへと向かうことになり
彼はいよいよ最後の選択をすることになるのが
それは本作の醍醐味なのでここでは伏せておくが
やはりこの物語、主人公を演じることを決意した
ジョナサン・メジャースには賞賛しかない
一時は「MCUマルチバースサーガのメインヴィラン」「クリード3の敵役」など
AAA級のビッグバジェットに名を馳せた彼だが
私生活のトラブルによって、それらのキャリアをすべて失った
転落の落差だけでいえば、キリアン・マドックスをも超えているといってもいい。
そして復帰作として、主役が暴力や薬物に走り、人生を転落するこの作品を選んだことは
自身のイメージと重なることになってしまった現在では
相当の決意が必要のは想像に難しくない。
だが彼は罪を償い再び立ち上がり
この作品の評判も良く、再び評価されつつある。
そう、この作品を作られた経緯も含めてジョナサン・メジャースの
ワンスアゲイン・ストーリーなのである。

イメージという意味では
ブラッド・ヴァンダーホーンを演じるマイク・オハーンも
良く演じきったものだと思う

オマケ
それはさすがに詰まるやろ!


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