公開日 2024年9月19日
上映時間 111分
監督 モーリッツ・モール
脚本 アーマン・ザヒディ タイラー・バートン・スミス
キャスト ビル・スカルスガルド ヤヤン・ルヒアン ファムケ・ヤンセン シャールト・コプリー アンドリュー・小路 ジェシカ・ローテ ブレット・ゲルマン H・ジョン・ベンジャミン
文明が崩壊した終末世界。
公式サイトより抜粋
狂気の女帝ヒルダ・ヴァン・デル・コイが支配する腐敗王朝のもと、
少年〈ボーイ〉は家族を虐殺され、声と聴覚を失う。
絶望の中で彼を導いたのは、幼い頃に夢中になったゲームの主人公の“内なる声”。
その声に突き動かされ、謎の男シャーマンのもとで
地獄の修行に身を投じた彼は、沈黙の殺戮者へと覚醒。
そして年に一度の“粛清の日”ついに復讐の時が来るー。
debuwo評価 80点
おすすめ度 ★★★★(星4)
好きが詰め込まれすぎている映画
- バキバキに鍛え上げた主人公!
- 管理されたディストピア!
- 血みどろのアクションと復讐劇!
- 格闘ゲームリスペクト!
- ダフトパンクみたいな女兵士
- 爆拳壊界流転掌列伝という邦題 ※バクケンカイカイルテンショウレツデンと読む
- 日本版予告編のナレーションが千葉繫さん

90年代サブカルチャー的な設定とデザイン
何から何までダサさを通り越してギャグの領域に入りつつある数々の設定を
ギャグ扱いされるのも分かったうえで、大真面目に作った!そんな気概と世界観は
30代~50代のサブカル好き男性に刺さる要素の塊のような作品

ぶち上げのアクションと俳優の魅力
本作の主人公ボーイを演じるビル・スカルスガルドは
約作りの為に9キロの減量を行い、徹底的に肉体改造を行い
その傍らで大量の武術映画を見て撮影に臨んだ
ザ・レイドのヤヤン・ルヒアン演じるシャーマンの鍛え上げられたとされる
ボーイの動きのキレの凄まじさは
ジョン・ウィック4でお高く留まっていただけの悪役を演じていたとは思えない出来栄えだ
設定上喋ることができない為、表情や振る舞いで感情を表現する演技力の高さも光る
素手、日本刀、ガンアクションそしてブラストナックル
何を使っても様になる姿から今後もアクション映画でビルが重宝されると思われる

そしてスカルガルドも本物のマスター(達人)と評するヤヤン・ルヒアン
御年56歳で劇中で主人公ボーイとある人物を2対1で手玉に取る圧倒的強さと動きの切れは
流石はレジェンドアクション俳優と言わざるを得ない

ストーリーは結構しっかりしてる
最初に書いた通り本作は男が好きそうな要素を詰め込んだ映画で
格闘ゲームのナレーションが主人公の心情を話す演出や
仲間のバショーとベニーの名作「スナッチ」じみた滑舌的なギャグなど
コメディ要素もとても楽しい
そしてこの手の映画は良い意味で核となるストーリーとコメディ部分以外は雑だったりする。
しかしこの映画、思ってる以上にストーリーはしっかりしている。
ヒルデの真相とテンポ感
劇中でストーリーの核心に迫る統治者ヒルデとボーイの邂逅
このシーンでヒルデの人物像が一瞬でわかるテンポ感を利用した演出は監督のセンスが光るシーンだろう
ここでボーイの今までの全てを覆す衝撃の事実が告げられる
今まで自分が仇だと思った人物が母であり殺されたのは師の家族だった
とんでもない事実にボーイは思考が追い付かなくなり同様に観客も思考が追い付かなくなる
・母や妹は殺されていない?では妹は?
・自分は何のために戦っていたのか?
・それはそれとして実の息子に処刑人にするのか?
ボーイと同様に意識が反芻しているところに
『シャーマンがどこにいるのか吐きなさい!』
というヒルデの怒号が飛び
ボーイと観客はギデオンの言葉の意味を理解することになる。
このシーンの演出はアクションを抜きにした映画的演出として非常に秀逸だ。

シャーマンの人物像
冒頭のトレーニングシーンでボーイはシャーマンから苛烈なトレーニングに
食事は虫という虐待じみた扱いを受ける
全ては家族を奪われたボーイの復讐のためとされるが
実はその復讐劇も彼に仕組まれたもので
薬物を使い彼を洗脳する鬼畜ぶり
当然彼の行いは褒められたものではないが
どこかボーイを息子と重ねている節もあり
虐待や声と聴力を奪ったのもヴァンデルコイ一家への復讐と見れる反面
補聴器が必要だった亡き息子に寄せていると思えるし
ボーイがトリップしているときに聞いた愛しているというのも
息子とボーイを重ねてる上での譫言とも取れる
終盤、ボーイが歯向かわなければおそらく殺すこともなかったであろう様子から
劇中でギデオンが言うように、シャーマンはシャーマンで畜生ではあるが
行き場のなくなった愛が歪に歪んでしまった悲しき父親という印象だ。

エモーショナルな理想郷
主人公ボーイからすれば母は体制側の独裁者で
父代わりのシャーマンは反体制の歪んだ復讐者
どちらの元にも着くことは出来ない
そんな中答えを提示してくれるのはいつも
イマジナリーフレンドの幼き日の妹だった
腐ったこの終末世界は結局のところ
誰を倒しても、ろくでもない世界でしかない
ゾンビ映画のカナダのような物的な理想郷は既に存在せず
理想郷があるとすれば、誰かと共有できる素敵な思い出
美しき思い出を共有できた人がいればそれを胸に生きていける
という解釈は本作でもひと際美しく、劇中のラストで描かれる演出もとてもさわやかで
絶妙なスパイスとなっているといってもいいだろう

BGMは若干厳しい
よくなかった点を挙げるとすれば音楽だろう
はっきりいって本作は戦闘シーンにBGMがまったくなっていない

最初の命のやり取りを描くシーンで流れるLal MahalやI Get Mineもとにかくアガラナイ
昨今のキレキレのアクションといえばジョンウィックのクラブミュージックや
MCUの荘厳なオーケストラや80Sポップスなどを敢えて避けたのかもしれないが
そのせいで戦闘シーンのカタルシスが半減としていると言わざるを得ない
サイバーパンクや格闘ゲームっぽいBGMやヘヴィメタなどいくらでも選択肢があった中で
これは失敗というほかない印象だ
とはいえアガるものはアガる
音楽は致命的にあっておらず
シリアスとコメディのバランス感覚もややどうかと思う所はある
しかし、世界観・キャラデザイン、アクションシーンのキレ、90年代ビデオゲームへの愛
そして、ボーイの少年期と青年期の同時間軸に並ばせる斬新な演出や
そこまでやるかという最終決戦、愛嬌のある脇役たち
好きな要素があり過ぎて、些細な欠点で嫌いにはなれない作品

Super Dragon Punch Force 3
劇中でボーイたちが遊んだとされるアーケードゲーム
『SUPER DORAGON PUNCH FORCE2』
このゲームはあくまで映画本編のみ登場する架空の作品だが
続編である『Super Dragon Punch Force 3』は現実に発売されている!!
南アフリカのインディーズメーカーTalent Digital Artから無料ゲームとして発売されている!!


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