公開日 2025年7月11日
上映時間 129分
監督 ジェームズ・ガン
脚本 ジェームズ・ガン
キャスト デイビッド・コレンスウェット レイチェル・ブロズナハン ニコラス・ホルト イザベラ・メルセド ネイサン・フィリオン エディ・ガテギ スカイラー・ギソンド サラ・サンパイオ アンソニー・キャリガン マリア・ガブリエラ・デ・ファリア
大手メディア「デイリー・プラネット」で平凡に働くクラーク・ケント
公式サイトより引用
彼の正体は人々を守るヒーロー「スーパーマン」
子供も大人も
愛する地球で生きるすべての人を守り救うため
日々戦うスーパーマンは誰からも愛される存在
そんな中、彼を地球の脅威とみなし暗躍する
最高の頭脳を持つ宿敵=天才科学者にして大富豪
レックス・ルーサーの世界を巻き込む
綿密な計画が動き出す
debuwo評価 97点
おすすめ度 ★★★★★(星5)
筆者によるレビュー動画
スーパーマンは“敗北”から始まる
かつて“ヒーローの原点”として数々のシリーズが描いてきたスーパーマンの誕生譚——。
しかし、2025年版『スーパーマン』はその慣習を打ち破った。
舞台は、スーパーマンが世界に現れてから3年目。
すでに民衆に知られた存在として描かれながら
物語は彼の“初めての敗北”から始まる。

この構成こそ、ジェームズ・ガン監督による大胆な再定義だ。
彼は語る——
「この作品に予習はいらない。スーパーマンは誰もが知っている存在であり、その“現在”から観客を物語へ導きたかった」と。
わずか数分で語られる誕生譚はテキストとナレーションだけ。
それは、現実世界でスーパーマンというヒーローがすでにアイコンとして認知されていることへの信頼でもある。
映画はその延長線上にある世界——“スーパーマンが既にいる世界”として構築されているのだ。

この出発点によって、本作は観客とスーパーマンの距離を一気に縮める。
既知の存在として彼を捉えたとき、私たちは“何者かになる物語”ではなく、
“何者であり続けるか”を描く過程に向き合うことになる。
そして、その再出発の端緒に描かれるのは敗北。
絶望、軋轢、自己否定——それらを抱えながら、それでも彼は立ち上がる。
まさに人間的な弱さを描くからこそ、彼の強さが際立つ構成なのだ。
新章としての『スーパーマン』は、過去の神話をなぞるものではなく、
現代における“信じる力”を問い直す冒険譚として提示されたのである。
不完全だからこそ完璧な存在
歴代スーパーマンのイメージといえば、圧倒的な力と理性。
とりわけヘンリー・カヴィル版では
ザック・スナイダー監督の演出によって神々しさすら漂う存在として描かれていた。
『マン・オブ・スティール』『バットマン vs スーパーマン』『ジャスティス・リーグ』
いわば“神に近いヒーロー像”が構築されてきたのだ。

しかし2025年版『スーパーマン』では、そのイメージを真っ向からひっくり返す。
演じるデヴィッド・コレンスウェットのスーパーマンは
冒頭でいきなりウルトラマンとの戦いに敗北し
同僚とは口論、愛犬クリプトは言うことを聞かず、紛争の仲裁も実質的には失敗に終わる。
スーパーパワーを持っているからといって、世界を完璧に守れるわけではない。
政治的な駆け引き、人種差別、自分の“暗黒面”とさえ向き合わなければならないこの世界で、
彼は完全無欠の存在として描かれていない。

ジェームズ・ガン監督が語るように、
「善であるというだけで、いつも論理的に正しい行動がとれるわけではない」
だからこそ、この不完全さがリアルで、彼が“愛されるヒーロー”である理由にも繋がる。スーパーマンが抱えるのは、誰が敵かも曖昧な世界での選択、
両親の秘密によって揺らぐアイデンティティ、そして自己を脅かす存在との対峙。
それでも彼は、人々のために立ち上がる。
失敗しても、傷ついても、それでも助けようとする。
その姿勢そのものが、“ヒーローの本質”を語っていると言えるだろう。

だからこそ、彼がリスを救う救助シーンも、クリプトにじゃれつかれて困る姿も、
「自分も他の人と変わらない人間だ」と言い切るセリフも、胸に響いてくる。
デヴィッド・コレンスウェット演じるスーパーマンは、不完全であるからこそ完璧だ。
彼は、人類が本当に必要としている“優しさと勇気の象徴”そのものなのだ。
監督の自己投影と作品の出来
SNSでは、スーパーマンという存在へのバッシングが絶えない。
ヒーローへの信頼は崩れ、かつて「善」の象徴だった彼らは
今や過剰な力の象徴として疑われてもいる。
だがジェームズ・ガン監督は、その潮流を恐れずに受け止め、再定義した。
たとえば——パンク好きなクラーク・ケント。
彼の自室には、DC作品内に存在する架空のバンドのポスターが飾られている。
これはただの趣味描写ではなく、監督本人の“若き日の自己投影”に近い。

スーパーマンを完璧な神ではなく、悩み、躓きながら
それでも人に優しくあろうとする青年に描いた今作。
その姿はまさに、ジェームズ・ガン監督自身の過去の経験談に重なる部分がある。
しかし、こうした描写のどれもが、政治的なプロパガンダや思想の押し付けではない。

むしろ本作が目指すのは、「優しさの再定義」だ。
スーパーマン自身が「自分は何度も失敗する」と語ることで
絶対的正義ではなく、“不完全さを受け入れるヒーロー像”を描いている。
それは、自己肯定の物語である。
だが、自己賛美では決してない。
観客への呼びかけと、自分への赦し。
そのバランス感覚こそが、ジェームズ・ガンという作家の手触りだと思う。
今の社会では、人に優しくすることが難しくなっている。
だからこそ、優しくあることこそが逆に“パンク”で、
“かっこいい”——そう言えるセンスは、まさしくジェームズ・ガンならではだ。

“感情の深度”を描いたレックス・ルーサーの涙
2025年版『スーパーマン』の中でも、最も議論を呼んだシーンのひとつが
終盤に描かれるレックス・ルーサーの涙だ。
演じるニコラス・ホルトは、冷徹な天才ヴィランとして登場しながら
最後に感情の奔流を露わにする。
筆者が思うに
この涙、単なる悔しさでは収まらない。
スーパーマンに敗北したその瞬間、彼が感じたのは怒りだけではない。
自分が差別し、異星人として敵視していた存在に
自分と同じ“人間”としての姿を見てしまった衝撃。
その価値観の崩壊こそが、涙となって噴き出したのだ。

彼の中でスーパーマンとは、“外宇宙から来た侵略者”
両親の記憶を復元し「それ見たことか」と得心した時点で、その認識は確固たるものだった。
だからこそ、ウルトラマンとの戦闘で「1A! 1A!」と叫びながら
スーパーマンを圧倒した瞬間には、人類代表としての誇りを見せつけていたようにも映った。

だがその後、スーパーマンはレックスを制裁しなかった。
「俺もお前と同じ人間として、世の中を良くしようと努力している」と訴えかけてきた。
それは、レックスの根底を揺るがす言葉だった。
彼が憎んできた“異物”は、実は自分と変わらない人間だったのだ。
もちろん、レックス・ルーサーは悪人だしすべてを悔いて改心するようなことはない。
ネバーエンディングストーリー2の“愛を知った女王”のような展開にはならない。
けれど、人類を守るという信念の下で、必死に努力してきた自分が
同じく人類の未来を背負っていたスーパーマンと重なった瞬間。
その精神的な衝突と崩壊が、涙となって流れたのだ。
演者ニコラス・ホルトも語るように
「レックスは人類を深く愛しており、地球を守れるのは自分しかいないと信じている」
その信念が歪んだまま描かれているからこそ
ヴィランでありながら強烈に人間味のあるキャラクターとして際立つ。
涙は、敗北以上に“感情の深度”を物語っていた。
関連作『ブライトバーン』が照らす毒親と暗黒面
『スーパーマン』(2025)の中でも特異な描写として際立つのが
カル=エルの“生みの親”に関する設定だ。
その存在は、まさに“とんでもない畜生”として登場し
彼のアイデンティティを根底から揺るがす存在となる。

この毒親的描写が持つ毒気は、ジェームズ・ガン監督が過去に関わった作品とどこかリンクする。
たとえば『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーVol.2』に登場するスターロードの父、エゴ。
一見理想的な存在として現れながら
実際は極めて自己中心的かつ支配的なキャラクターとして描かれていた。

さらにもう一作。2019年に公開された
ホラーSF『ブライトバーン/恐怖の拡散者』だ。
ジェームズ・ガン自身は製作に回り
脚本は彼の兄弟ブライアン・ガンとマーク・ガンが担当している。
この作品は“闇堕ちしたスーパーマン”のようなコンセプトをもとに構築された物語で、
地球に舞い降りた少年ブランドンが育ての親の愛情にもかかわらず
徐々に邪悪な人格に染まっていく様子が描かれている。
スーパーヒーローの誕生を祝福するのではなく、
その力と存在が“手に負えない脅威”に変化する恐怖の物語。
まさに“スーパーマンがこうだったら”という裏表の構造が、
『スーパーマン』(2025)の毒親描写にも何らかの着想を与えている可能性がある。
善と悪は、育てられ方と自認によって紙一重の関係にある。
ジェームズ・ガンが手がける世界では、家族さえも希望を与える存在ではなく
時に恐怖と試練の起点となる。
それでもその中で立ち上がる者こそが、真のヒーローとして描かれるのだ。

後編へ続く!!
「熱血・変人・凶暴・天才──クセが強すぎる超人たちが世界を飛び回る!
ジェームズ・ガン節炸裂の長回しアクション
謎のスーパードッグ“クリプト”
そして民衆の涙が世界を動かす瞬間へ──
後編では、スーパーマンだけじゃない“新時代DCヒーロー”たちの魅力と
魂が震えるシーンを全力で追う!
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